時系列解析入門備忘録 1次の自己回帰モデルについて
· 時系列解析数学物理
はじめに
この記事では
https://www.iwanami.co.jp/book/b265410.html
を参考にしています。
第3章のp29にて
例 自己回帰モデルのスペクトル
wnを分散がσ2の白色雑音とする。時系列がyn=ayn−1+wn(1次の自己回帰モデル)に従って生成されている場合には、自己共分散関数はCk=σ2(1−a2)−1a∣k∣で与えられる。
とあります。自己共分散関数が天下り的に与えられていました。ちょっと分からなかったので、時系列がyn=ayn−1+wn(wnは白色雑音)のとき、
Ck=σ2(1−a2)−1a∣k∣
を導出します。
準備
自己共分散関数の定義
自己共分散関数は次で与えられます。時系列をynとしたとき、
Ck=E[(yn−μn)(yn−k−μn−k)]
です。ここで、E[⋅]は期待値を表し、μnはμn=E[yn]を表します。
弱定常の定義
時系列が弱定常であるとは、期待値、分散、共分散が次を満たすことです。
E[yn]Var[yn]Cov[yn,ym]=E[yn−k]=μ=const.=Var[yn−k]=const.=Cov[yn−k,ym−k]=const.
ここで、分散、共分散はそれぞれVar[yn]=E[(yn−μ)2],Cov[yn,ym]=E[(yn−μ)(ym−μ)]と、具体的に期待値の表記で書かれます。
3つ目の共分散が定数であるという条件は、共分散関数
Ck:=Cov[yn,yn−k]
が、ラグkのみに依存することと等価です。時間nには依存しません。
1次の自己回帰モデル
時系列ynとして、1次の自己回帰モデルは
yn=ayn−1+wn
と表されるとします。ここでwnは白色雑音(white noise)で、
E[wn]Var[wn]=0,=σ2
を満たします。
1次の自己回帰モデルで∣a∣<1 ⇒ 弱定常
1次の自己回帰モデルyn=ayn−1+wnで∣a∣<1ならば弱定常であることを示します。上記のセクションで言及したように、弱定常性をいうには期待値、分散、共分散関数が時間nに依存しないことを示せばいいです。
(i)
まずは期待値を考えます。yn=ayn−1+wnを順々に用いることで
yn=ayn−1+wn=a(ayn−2+wn−1)+wn=a2y2+awn−1+wn⋮=akyn−k+j=0∑k−1ajwn−j
です。k→∞が近似的に成立する程度に長い時系列を考えています。これの期待値をとると、
E[yn]=E[akyn−k+j=0∑k−1ajwn−j]=akE[yn−k]+j=0∑k−1ajE[wn−j]=akE[yn]k→∞⟶0
となります。2行目で白色雑音の定義、3行目では∣a∣<1の条件を使用しています。
(ii)
次に分散を考えます。これもまた、期待値同様にk→∞が近似的に成立する程度に長い時系列を考えています:
Var[yn]=Var[j=0∑∞ajwn−j]=j=0∑∞(aj)2Var[wn−j]=σ2j=0∑∞(aj)2=1−a2σ2
これは定数、つまり時間に依存しませんのでVar[yn]=Var[yn−k]を満たします。
(iii)
最後に自己共分散がラグkのみに依存することを示します。k>0として、定義より
Ck=E[(yn−μ)(yn−k−μ)]=E[ynyn−k]=E[(ayn−1+wn)yn−k]=aE[yn−1yn−k]+E[wnyn−k]=aE[yn−1yn−k]=aCk−1=a2Ck−2=⋯=akC0=akVar[yn]=ak1−a2σ2
と計算できます。よってラグkのみに依存し、時刻nには依存しません。
以上(i)(ii)(iii)より、1次自己回帰モデルは弱定常であることが導けます。
1次の自己回帰モデルにおいて弱定常 ⇒ ∣a∣<1
弱定常の1次自己回帰モデルならば∣a∣<1を満たす、ということの待遇は、∣a∣≥1ならば非定常である、ということを示せばよいです。
(i)
a=1のときを考えてみます(これはちょうどランダムウォークを考えている)。つまり、
yn=yn−1+wn=y0+i=0∑nwi
です。この分散は
Var[yn]=Var[y0+i=0∑nwi]=Var[y0]+i=0∑nVar[wi]=Var[y0]+nσ2
であります。これはnに依存していますので非定常です。
(ii)
∣a∣>1に対して、もし定常であればC0=σ2/(1−a2)です。この仮定よりC0<0となりますが、C0≥0であることから矛盾が生じます。
(iii)
(ii)と同様に、定常であればC0=σ2/(1−a2)です。しかし、これは発散してしまいますので、分散が定義できません。
したがって、(i)(ii)(iii)より∣a∣≥1であれば非定常、つまり弱定常ならば∣a∣≤1であることを示せました。
Ck=σ2(1−a2)−1a∣k∣の導出
ynの分散を求めます:
E[yn2]=E[(ayn−1+wn)2]=a2E[yn2]+aE[ynwn]+E[wn2]=a2C0+σ2
であるから、C0=a2C0+σ2です。よって
C0=1−a2σ2
です。このまま自己共分散関数を求めると、
Ck=E[ynyn−k]=E[(ayn−1+wn)yn−k]=aE[yn−1yn−k]+E[wnyn−k]=aCk−1=a2Ck−2=⋯=akC0=ak1−a2σ2
となります。
ここでは、k>0を仮定していますが、Ckの定義よりCk=C−kなので
Ck=1−a2σ2a∣k∣
が導かれます。
参考文献
https://www.iwanami.co.jp/book/b265410.html